額に冷却ジェルシートを貼っている蓬生を、ぱたぱたと団扇で扇ぎながらぼそりと呟く。
「だから庭で昼寝は駄目って言ったのに…」
「今日は外の方が風があって…少しは眠れる思ったんよ」
苦笑いしている蓬生の顔色は、いつも以上に白い。
昔ほどではないとはいえ、普通の男性よりも体力のない蓬生にとって、まさに夏は天敵なのだ。
「何かいるものある?」
「あんたがこうしてそばにおってくれれば…充分や」
それもこれも、暑さに参った蓬生が言ういつもの台詞。
「…明日には、何か食べさせるからね」
「はいはい…の言うことには、逆らわんよ」
冗談を言う元気があるだけマシ、と判断し、さっき千秋が渡してくれたスポーツドリンクを手に取る。
「水分だけはしっかりとってね」
「せやね…」
きゅっ…とペットボトルのフタを外し、蓬生の方へ差し出す。
「飲めそう?」
「…あかん、まだ起き上がれそうもないわ」
起き上がろうとしたけれど、動けない身体。
いつもならペットボトルにストローをつけて渡すところだが、あいにく今は手元にない。
キッチンにストローを探しに行こうかと考え始めると、蓬生の手があたしの服を掴んだ。
「なぁ…」
「ん?」
「飲ませて」
「…………はい?」
「今すぐ水分と、栄養…補給したい」
「栄養…?」
「あんたが口移しで飲ませてくれれば、愛情も一緒に吸収できるやろ」
弱った状態で、良くそんなことが思いつくもんだ。
「…な?」
「温くなるとか…零したらとか、考えない?普通」
「そんなことより、に飲ませて貰いたい気持ちのが大きいんやろうねぇ…思いもせんかったわ」
ひょっとして暑さで脳が沸騰しちゃったんじゃなかろうかとか思ったけど、そのお願いを聞いて…叶えてあげたいと思ってしまう、あたしの方が末期症状かもしれない。
「…零したら、ごめん」
「そん時は、綺麗に舐めて」
「……………蓬生が言うと、なんか、エロい」
「あかんよ…女の子が、そないなこと言うたら……興奮してまう」
「…なんか頭からぶっかけたくなってきた」
「ふふ…そしたら、が全身綺麗に拭いてくれるん?それもええなぁ…」
ダメだ…これ以上喋ってると、どんどん図に乗ってくる気がしてきた。
軽くため息をついてから、この手のかかる甘えん坊の願いを叶えるべく、ドリンクを口に含む。
蓬生の顔の脇に手をついて、重力に従って流れ落ちていく水分が零れないよう、しっかり唇を重ねる。
「…んっ」
こくり…と、蓬生の喉が動いたのを確認してから、ゆっくり唇を離す。
微かに潤った彼の唇が、妙に艶っぽく見えるのは…本人がかもし出す色気のせいだろうか。
その色気に飲まれないよう、体勢を起こそうとする前に、下から両手が首に回され、動きを止められた。
「…もっと」
「まだ、飲むの?」
「栄養補給せんと、また倒れてまう」
「………甘えん坊」
「嫌い…なんて、言わせんよ」
くすくす笑う姿は、ステージで堂々と演奏する副部長とはまた別物。
「は手のかかる俺が…好きやんなぁ?」
「…違うもん」
もう一度、ドリンクを口に含むと、蓬生が何か言う前に、それを口移しで飲ませる。
勢いの所為か、僅かに彼の口端から零れた水分をぺろりと舐めると、赤く染まった自覚のある顔を隠す事無く、まっすぐ目を見てはっきり言った。
「蓬生だから、好きなの」
「………」
「手がかかろうと、かかるまいと…蓬生だから、こんなことだってするんだからね!!」
「……………うわ…、それ…反則や」
「…なに?」
今まで動くことのなかった蓬生が、腕に力をいれて抱き寄せたせいで、手に持っていたペットボトルが床に落ちた。
「ちょ、落としたっ!」
「構へん…」
「でもっ…」
「…はぁ、はよ元気にならんとあかんわ。こない可愛いあんたがいるのに、抱けないなんて…辛すぎる」
「はぁ!?」
「触れて啼かせて…めちゃくちゃにしたい気分」
「はぁああ!?」
「…はー…クーラーは好かんけど、やっぱり使うたほうがええやろか」
何かを堪えるよう、縋りつく蓬生に反して…床に落ちたペットボトルからは、溢れた液体が床に大きな水溜りを作っていった。
…なにがきっかけでスイッチが入るか分からないよねって話。
だが、毎度思うんだけどもさ…口移しで飲ませると、生ぬるくないのか?と(苦笑)
え?やっぱそれは気にしちゃいけないこと?
まぁ、書いた自分が言うのが一番おかしいんだろうけどもさ。
とりあえず、蓬生は夏、使い物にならないって話でした(うちのサイトの蓬生限定ですが(笑))